「ヒューマンエラーの科学的分析」 精神科病院におけるヒューマンエラー分析は、担当者の裁量によるばらつきが大きく、科学的根拠に基づいていないことが多いと感じる。 ヒューマンエラーとは、意図した行動計画に反して望ましくない結果を生む行動のことである。 果たして、感覚的なエラー分析だけで、安全文化を確立できるのだろうか。 確かに、限られた人員と時間の中で、迅速にエラー報告と分析を行うことは大切である。しかし、その分析が個人の感覚に依存していては、再発防止策は一貫性を欠き、形骸化する危険がある。 以前、同じような投薬エラーが複数回発生したが、分析視点が毎回異なり、対策も統一されなかった。その結果、エラーの本質が見逃され、再発が続いた。 エラー分析は「人を責める」ためでなく「仕組みを見直す」ために行われるべきであり、科学的・組織的な視点が欠かせない。感覚的な分析によってスタッフの心理的安全性と信頼形成を損なってはならない。 この問題を解決する方法としては、ヒューマンエラーを「スリップ」「ラプス」「ミステイク」「違反」の4分類に分け、それぞれに適した対策を講じる体制を整えることが有効と考える。たとえば、 *ラプス(記憶の抜け)*にはチェックリストや外部記憶装置を、 *スリップ(注意の逸脱)*にはKYT訓練や作業環境の整理を、 *ミステイク(判断ミス)*にはフールプルーフ設計やフェイルセーフ、多重防護策を、 *違反(ルールの逸脱)*には動機の把握と教育的介入を。 (参考:河野龍太郎『医療におけるヒューマンエラー』第2版, 2014) 「人はミスをする。だが、仕組みはそれを許してはならない」——これは高信頼性組織(HRO)の原則でもあり、NASAや航空業界では、こうした分類と対策が標準化されている。 分類を導入すると、一時的に分析に時間がかかるかもしれない。しかし、長期的には再発防止と安全文化の醸成につながるはずだ。私は、エラーのたびに分析方法が変わることに疑問を感じている。科学的根拠に基づいた統一的な視点で、再発を防ぐ仕組みを病院全体で共有していきたい。 牛根